連作短編小説の形式をとった本作。
各章ごとのタイトルと内容のマッチがいい味を出しています。

タイトルから次はどんな臓器の話か分かるのもいいし、どう物語が広がっていくかを考えるのも楽しい。

本書後ろのあらましだけ見ると、最強エスパーがばっさばっさと難事件を解決していく……みたいに書かれてますが、全然そんなことありません。


サイファ(エスパー)の力を使って、物を浮かせたり、人の心をある程度読むことはできるけど、物を浮かせたいなら手を使えばいいし、人の心なんて完全に読めないから会話をして
理解しあった方がいい、と最強の超能力に絶対の自信を持っている……という風には感じられません。

主人公の菊月虹(きくづき こう)はことあるごとに「サイファの能力は人間が進化する過程で捨ててきた能力」だと言ってはばかりません。

不必要に周りの感情に流されそうになってしまったり、恐ろしい幻覚を見てしまったり、自分と他人との境界があやふやになってしまいそうになったり。

サイファという力は世間では「強力な武器」と認識されているが、実際にはそんなことはないと主人公のコウは語ります。

「この能力のせいで余計な面倒を背負う羽目になる」とコウは愚痴り、
「尻尾のような物」と自分の能力を評しています。

積極的に能力を使っていくという訳ではなく、ただただあると便利な場合もあるから使っているという感じです。
そんなコウは常に自然体で「来月の家賃は払えるだろうか?」「パンにカビがはえてないだろうか?まだ食えるか?」などと、悩みも庶民的。

超能力物にありがちな、最強の能力を持ってしまった故の葛藤とかそういってものとは一切無縁な割とダメなおっさん主人公です。

なのにカッコよく見えてしまうから不思議。

そして本作を語る上で欠かせないであろうキャラクターが、コウの兄であり年下の女性。
美しきトランスジェンダー・エージェントのMJでしょう。

このキャラクターはコウと正反対で、自分のサイファ能力を駆使して仕事を得て、
その能力に絶対的な自信を持っています。

そしてなにより超攻撃的な性格。
自分に向かってくる脅威は問答無用で排除するという恐ろしい女性?です。

しばしばコウと出くわし衝突するのですが、二人が表面上は憎みあっている(MJが一方的にだけど)が依存し合っていることが見て取れます。

ていうかMJ可愛い。男で40代でカマだけど。


読後に知ったのですが、ソノラマ文庫版の表紙はかの高河ゆんだったそうです。

見てみたけど表紙のコウが全然おっさんじゃないし。
挿絵などでMJはなかったそうですが、がゆん的MJも見てみたかった……

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